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大観峰コーヒーブレイクミーティング・春

※文中にあるツーリングマップルの記号数字は2003年版以降のページ/エリア番号。旧版はそれ以前の版です。

2005年4月3日

早い夜明け

目覚まし時計が鳴ったのは午前4時半。

まだ眠気を引きずっている重たい頭を冷水で引き締め、いつものように身支度を整える。荷物は前の晩にだいたい詰めておいたので、防水バッグの太いジッパーを締め込んだら、そのままBandit250に乗せるだけ。野宿しに行くわけではないからテントやシュラフは要らないものの、ガソリンストーブに大きめのヤカン、コーヒーを入れるドリッパー・セット、予備の3リットル水タンク、背もたれ付きの折りたたみ椅子、突然の雨に備えてのブルーシートとロープ、三脚・・などなど、ゴチャゴチャとBandit250のせまいリアシートに積み上げると、それでもけっこうなカサになってしまった。

今日は春の大観峰コーヒーブレイクミーティング開催の日、これから200キロほども離れた大観峰の第3駐車場まで、午前10時までには到着していなくてはならない。これだけ早起きしてもあまりノンビリと構えている余裕はないのだ。

昨夜の残り物で軽く食事をすませたら、車体と装備を手早くチェックする。最後にもう一度荷ひもの締まり具合を確認してからエンジンスタート。もう4月だから、真冬のようにチョークを引く事もなく一発でエンジンは目覚めてくれた。まだ眠っている隣近所に配慮して、そのままゆっくりと発進し、暗い路地をソロソロと進みながらエンジンやギアが馴染むのを待つ。

さすがにこの時間帯は時折トラックとすれ違う程度で、一般車はまったくいない。昨夜は少し雨が降ったようで、黒く濡れた路面上のワダチ部分が、ヘッドライトに白く浮き上がっている。隣町の東郷町から出水方向へ伸びる山間のバイパス県道にかかる頃にはエンジンもようやく本調子。一路阿蘇を目指してアクセルをふりしぼると、Bandit250の4気筒エンジンが高らかに唸り始めた。

R3を北上

R3佐敷トンネル

時刻は6時前、鹿児島県の北端にある出水市を過ぎ、熊本県内に入る頃には東の空もだいぶ明るくなって来た。しかし今日は朝から雲が厚く、灰色の雲のうねりが山の向こうまでずっと続いている。出がけに見た天気予報では一応回復基調となっていたけど、日中通しての晴天とはいかないらしい。もっともこの時期は晴れ間が出てもあまり長続きしないし、高地で天気の変わりやすい阿蘇周辺ならなおさらだ。昨年のコーヒーブレイクの時のように、ふもとでは晴れていても山頂あたりは嵐のような天気だったりするから、予報自体あまり当てに出来ない事が多い。

水俣を過ぎると、まもなく三太郎峠の名で有名な峠越えが待っている。何度となく通るこの道だが、交通量の少ない夜明けの時間帯はトンネル内の排ガス臭も少なく、周囲の木々の香りが心地よい。長距離トラックの速いペースに引かれ、快適な下道走行をいっとき楽しむ。

三太郎峠のうちの2つ、津奈木太郎と佐敷太郎を順に越えると田浦町に入る。このあと3番目の赤松太郎があり、トンネルの向こう側は熊本南部の大都市、八代市になる。ここには2月に完成したばかりの南九州自動車道・田浦インターがあり、赤松峠を越えた向こう側の日奈久(ひなぐ)インターまでの約9キロの区間が当分の間無料で通れるようになっていた。普段はよっぽど急いでもない限り高速道路は使わないのだが、せっかくの無料お試し期間、ひとつ試しに走ってみる事にした。

田浦インター入り口

ツーリングマップル九州P.42水俣1-I 旧版P.58水俣2-E

道の駅の前にある信号交差点を左に入り、真新しい舗装路面を大きなカーブに沿って駆け上がると、対面通行状態のままですぐ1本目の「新赤松トンネル」に入っていく。さすがに完成したばかりで照明もずいぶん明るく、壁面は真っ白で少しの汚れもない。メット越しにコンクリの乾燥した匂いがしてきそうなほどだ。制限速度表示は一応70と出ていたが、周囲に車の影もほとんどなく、なめらかな路面についつい気合いが入ってしまいそうになる。

トンネルを出ると道幅がぐっと広がり、追い越し用に2車線になるが、ほんの数キロも行くとまた対面通行に戻り、2本目のトンネルに入る。このあたりは海に近いせいか風が少し強く、トンネルの出入り時には横風に神経を使う。橋脚が山間のかなり高い位置に作られている影響もあるかもしれない。はるか眼下には交通量の増え始めたR3が見えている。

実はここの橋脚は周囲の山腹の地ならし段階から完成まで、工事の進み具合を隣のR3からずっと見てきたのだが、周囲の見慣れた山々がまるでノコギリで断ち割ったように直角に削られ、重機の群れが森林をそぎ取っていくのは、正直あまり気分のいいものではなかった。おそらく将来に渡っても採算は取れないだろうに、そこまでして造る意味があるのだろうかとさえ思ったものだ。このコンクリの固まりはこれからさらに南下し、何年後かには鹿児島側と接続、南九州自動車道・西回り高速を形成する事になる。しかし今後も私は仕事以外ではたぶん積極的には乗らないだろう。集合時間にうっかり朝寝坊すれば別かもしれないが・・。

いかにも急ごしらえといった感の残る日奈久インターから再びR3に合流、ここから八代市街地まではほんの10分ほどだ。あとはいつもの裏道コースでR443を経由し、熊本空港方面に向かう事になる。このまま行けば阿蘇の玄関口であるR57に達するのは午前9時ごろとなる予定。この下道コースは何十回も往復しているので、今ではかなり正確な読みが出来るようになった。

高速でジャンプしたのを含め、今までいいペースで走れたせいか、今日は時間に多少余裕があるようだ。そこでいつものR57へ抜ける道ではなく、空港バイパスから県道206に入り、阿蘇外輪山に西から入る「俵山越え」を久々にやってみる事にする。最近ここも新道のトンネルが出来て、旧道の峠はほとんど通行量がなくなっているらしい。同時に路面も荒れ放題と聞いているが、果たしてどうなっているだろう?


俵山峠

県道206から県道20に入り、道は次第に標高を上げてゆく。阿蘇外輪山の峠越えでは、大抵このように外側がなだらかなスロープで、峠を越えて内側に入ると様相は一転し、急峻な山岳路の下り道となっている場所が多い。これは阿蘇山に限らず、カルデラの外輪山はその生成過程において、こういう地形になりやすいものらしい。

ガスにけむる南阿蘇村の看板

ツーリングマップル九州P.25山鹿6-K 旧版P.39菊池5-H

西原村のメインストリートを抜け、白い色をした吊り橋構造の桑鶴橋(支柱の形状からバッテン橋と呼んでいる)を渡れば、旧道と新道の分岐点まではもうすぐ。

俵山峠と言えば、何と言っても峠部分からの素晴らしい眺望が特徴。数ある阿蘇山へのアクセスルート中ベストと言ってもいいくらいで、切り立った峠の眼下には外輪山の広大な平原が広がり、中央にそびえる阿蘇五岳の山塊が迫ってくる様は、峠越えの瞬間に目眩すら感じるほど。あの場所に立つためなら、高地での低回転走行が苦手な初期型Bandit250でクネクネ登る細道もさして苦とは思われないくらいなのだが、やはり今日は天候があまりよくない。周囲にさっそく白いガスが出始めており、おそらく峠に達する頃は真っ白でほとんど視界が効かないかもしれない。雨の前後にガスが出やすいのもこの峠の特徴なのだ。

時折濃いガスの固まりが流れる中、細い道をゆっくり登る。対向車はさっきから1台も来ない。対して眼下に見える広々とした新道には車がひっきりなしに流れている。せっかく広くて快適な道が出来たのだから、デコボコで曲がりくねった山道に好きこのんで上がって来るファミリードライバーもいないだろう。これでお天気さえ良ければザマアミロなのだが・・しかし路面は確かにデコボコだが、ここは以前からこういう風だったし、特にここ何年かで荒れてきているという印象はまだない。道脇には工事車が入っていて何かの施設の造成をやっており、旧道と言えど完全に見捨てられた訳ではなさそうだ。

道は西原村から旧久木野村へと入り、先のいわゆる平成の大合併で近隣の白水村・長陽村とともに南阿蘇村と名前を変えた真新しい看板が迎えてくれた。本来はその規模的にも「町」になるべきところだが、ムラという名前の響きがいかにも観光地っぽくて地元産業に有利に働くと考え、南阿蘇村という名前に落ち着いたという。このように合併後も村を名乗る例は全国的にも珍しいそうだ。

下りのワインディング

いっそう勾配を増した道をヨッコラと乗り越え、ようやく峠部分に着いたものの、予想通り視界の半分はガスで真っ白。近くの外輪山周辺はなんとか見わたせるが、中央山塊は完全に白いガスの中だ。仕方なくBandit250を発進させ、一転急な下りとなったつづら折りの道をソロソロと下っていく。

まだ野焼きが終わったばかりのようで、夏場であれば青々とした草原を眼下に見渡せるこの峠も、この時期だけは黒く焦げた刺々しい姿をさらしている。しかし新芽はすでにあちこちで吹き出しており、6月の声を聞く頃には阿蘇らしい大草原が広がっている筈だ。

まだ少し焦げたような匂いを残している空気を吸ううち、ふと思い立ってギアをニュートラルにし、エンジンを止めてみた。すると一瞬、あたりに静寂な世界が広がった・・。前後には1台の車もなく、聞こえるのは惰性で回るチェーンの擦過音と、冷たく澄んだ阿蘇の風の音のみ。遠くで時折鳴いているのはウグイスだろうか。以前どこかでも書いたけど、人気のない山道でエンジンを止めてみると、バイクや車がいかに騒々しく周囲の空気をかき乱しているかがよくわかるものだ。

やがて峠道も終わり、エンジンを再始動。登り口で分岐した新道と再合流する頃にはガスも晴れ、遠くまで視界が開けてきた。桜の開花時期とあってか、この時間でもファミリーを乗せたワゴンが多い。ここから少し東に行けば高森の桜並木があり、すぐ近くの旧白水村にはおそらく熊本県内で一番有名な桜の巨木、一心行の大桜もあって、満開時にはそれは見事な姿を見せてくれる。おかげでこの時期は周辺の道路が丸一日渋滞するほどの人気ぶりなのだが、昨年の台風禍で太い幹の1本が無惨に裂けてしまっており、今年ちゃんと花が咲くかどうか心配の声も上がっているという。渋滞は勘弁して欲しいが、この時間ならまだゆっくりしているだろうし、阿蘇に来るたび見上げてきた古桜が今どうなっているかも気になったので、立ち寄ってみる事にする。