HOME

笠沙から坊津へ

※文中の()内の数字は、昭文社刊ツーリングマップル(2000-2001年度版)のページ/エリア番号です。

2003年7月30日

スケッチブックと色鉛筆

ようやく暖かくなったと思ったら、いつのまにか梅雨も明け、暑中見舞いの季節。

いつもならパソコンでサッサッと作ってしまうところだけど、調子よく動いてくれないプリンターが葉書を何枚も飲み込んで、インクでベタベタにしてしまったのに業を煮やし、今年は手書きで出す事にした。といっても普通にアサガオとか描いても、イマイチ面白くないよなァ・・。

そうだ、景色の良いところに出かけていって、葉書に直接スケッチしてみようか。時節柄、海の見えるところがいい。それも海水浴客のあまり来ない、のんびり出来そうな所・・。

最初に頭に浮かんだのが薩摩半島の先端部、笠沙から坊津へと続く道。ここは風光明媚ではあるが、到達経路の険しさ故に同じ県内の者もあまり訪れない、ある意味忘れ去られた海岸線である。今までも何回か走った事はあるけど、いちばん最近でもかれこれ3,4年前の事。狭いクネクネ道もだいぶ改修されつつあると聞くし、ちょいと様子見がてら走ってみよう。さっそくスケッチブックと色鉛筆をバッグに放り込み、Bandit250で南を目指した。


薩摩半島を南下

青空の下続く道

まず川内市からR3で市来町まで下り、右手のR270に分岐したあとは、東シナ海沿岸を一気に南下する。

(九州:P72/H-4)

地図で見るR270は海の近くを一直線に走る「爽快なシーサイドライン」という印象だけど、国道から海岸線までの間には砂防林やら何やらあって、実際に海を見ながら走れるのは東市来町などほんの一部。その他の地域では国道から海はまず見えないし、海岸線へ出るにも細い生活道路を道々尋ねながら進まねばならず、なんとも海が遠い感じ。特に遠方からツーリングに来られる方は、宮崎の日南海岸みたいなのを期待していると肩すかしを食わされるので注意だ。

(九州:P77/H-6)


黄金色に波打つ稲穂

川内から約1時間、加世田市の市街地に入ると、市役所の近くあたりでR226の分岐が見えてくる。まだまだこのあたりは道路も奇麗で、アップダウンこそ若干あるがスムーズに走れる。しかし大浦から笠沙にかかると道沿いは一気に寂れてくるので、念のためバイクのガソリンは加世田周辺で満タンにしておく事をお薦めする。


海への小径

大浦町に入ると、道路右手に大規模な干拓地が広がってくる。整地された田んぼには稲穂がそよぎ、すでに1回目の収穫を終えようとしている。

ここの海岸に10数頭の巨大マッコウクジラが座礁したニュースはまだ記憶に新しいと思うが、町の記念館にはそのとき死亡したクジラを悼んで「お墓」がちゃんと作られている。近くの小湊海岸の砂浜にただ1頭のみ搬送に成功して埋葬された場所があるはずだが、どのあたりかは確認出来なかった。

こういったクジラが浅瀬に迷い込むニュースはここ数年多い。原因は地磁気の異常だとか、耳の穴?に寄生虫が巣食って方向を見失うなどの説があるが、結局はニンゲンが大量に排出している様々な環境汚染物質が影響している気がするのだが・・。


笠沙の岬へ

笠沙町役場の案内看板を見ていると、「海上特攻の慰霊碑」なるものがこの岬にあるらしい。海上特攻とは大和の沖縄特攻を指しているのだろうか?そういえば大和の沈んだ海域はここから遠くないはず。興味本位で見物するシロモノでもないとは思ったが、気になったのですこし立ち寄ってみる事に。

(九州:P77/E-6)

海のそばの道

笠沙郵便局で無地の「かもめーる」を買ったあと、駐車場のところから細い道を入って桂瀬鼻の方に向かうと、おばあちゃんが道の向こうからやってきた。道を譲るついでにバイクのエンジンを停め、慰霊碑のありかについて聞いてみるが、どうもはっきりとした場所をご存じないらしい。

「もう少し上の方で聞いてみてなァ」

私の住むあたりとは微妙にイントネーションの異なる言葉をたよりに、せまい道をおずおずと進むが、民家はあるものの人の気配があまりない。みなさん働きに出ているのだろうか、いかにも田舎らしく玄関は開け放ってあるが、どうやら誰もいない様子だ。何やら浜の方に「降りる」必要があるらしいが、ここはすでに断崖の上。そう簡単に降りられるところなどあるのだろうか?


車止め

そのうち車輌進入禁止の看板と車止めの手すりが現れた。といってもバイクは簡単に入れるほどの間があるし、よく見ると原付らしき轍がいっぱい走っているので、このまま進む事に。携帯の電波塔があるあたりまでは道もなだらかで、脇に小さな畑なども点在していたが、だんだん道が細くなり、ツタらしきものが路面に這い出してきている。そして路肩からも植物群がもりもりとガードレールを乗り越え、道路を覆い隠すほどの勢いだ。

強い日ざしの下、むせかえるような草いきれの中をゆっくりと進む。途中にあった巨大ブロックによる車止めもなんとかすり抜けたら、こんどは岬の先端に向かって道は一気に下り始めた。ギアをニュートラルに入れてエンジンを切り、惰性でずんずん下っていく。吹き抜ける涼風とともに蝉の鳴き声が一気に高まった。

ヤブに埋もれた道

そしてついに行き止まり! この先もかつては道が続いていたような感じだが、土砂崩れか何かで消えてしまったらしい。今は深いヤブに覆われているだけだ。かわりに海側の路肩に踏み分けた跡があって、木の幹には太いロープが縛ってあり、はるか下の方にある湾の砂浜まで降りられるらしい。もしかしたらこの下の方に特攻慰霊碑があるのかもしれないが、降下コースにはやはり猛烈に繁茂した植物群がひしめいており、ちょっと入る気になれない。それにロープでの降下がいつかの佐多岬踏破の時の疲労を連想させたりで、まだ先の長い今回はここでUターンする事にした。秋になってもう少し涼しくなったら、この先を探検しに行ってみよう・・。