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サドルの位置について

サドルの高さ

街中を走っている多くのママチャリを見ていて、何だかパッとしないなあと感じる一番の要因は、低いサドルに腰掛けるような姿勢で、ペダルを上から押しつけて漕いでいる点でしょうか。よくあんな苦しい姿勢で長々と乗っていられるものだなあ、と思います。

自転車を楽しむうえで、正しいフォームを身につける事はとても重要。上等なスポーツ自転車に買い換えるよりもずっと手軽に、効率のいい走り方が出来るようになる!と作者は確信するものです。


目次

サドルは椅子ではない

まず、自転車=完成された乗り物という固定観念を捨てましょう。靴やジーパンと同じで、まず自分の体にちゃんと合わせて調整する事がとても重要なのです。

サドルには、車やスクーターのようにどっかり座るのではなく、単なる下半身の支えとして意識し、あまり体重をかけない事が重要です。ハンドル側にも適度に体重を分散させ、ペダルの上に立ちあがるように漕げば(実際に立たずとも、意識するだけでもいい)、お尻の痛みもかなり軽減されるはずです。ただしこれは一般に多く見られる低すぎるサドル位置では困難なので、下の項で説明しているポジションの合わせ方を実施してみて下さい。

ペダルを踏む足の位置も、土踏まずではなく指の付け根の関節部分をペダルの中心軸に乗せるようにすると、効率がかなり違ってきます。これはジョギングや徒競走をする時を思い浮かべてみるとわかりやすいのですが、土踏まずで地面を踏み切って走る人はたぶんいないでしょう。走ったり歩いたりする時は必ずつま先側に力を込めて地面をキックしているはず。これは人間の足の筋肉や骨格の構造がそうなっているからです。

これらのポイントを意識するだけでスピードや航続距離がうんと違ってきますし、見た目も足長でスマートになります。サドル高の調整と合わせてぜひ実践してみて下さい。

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サドルの調整法

二瓶慶一氏(二瓶スポーツ工学研究所主催)によるサドル位置の決め方の例を紹介します。
※これは男性の場合の一例です。女性ではまたちょっと違うらしいのですが、残念ながら手元に資料がありません。

ここで使う厚手の直角定規は、一般家庭にはないでしょうから、適当な厚みのある雑誌で代用してもいいです。

サドルの高さ

サドル高の出し方

まず図のように足を8センチ間隔で平行にして壁にぴったりと背を付けて立ち、厚さ1.5センチの直角定規で股下の長さを測定する。普通の三角定規のように薄いものだと寸法が過大に出るため、「厚さ」の条件は守っていただきたい。

こうして測定された股下長に係数0.885を掛けたものが、ボトムブラケットシャフト(編注:クランクギアの回転軸)の中心から、サドルの一番へこんだ部分までの長さのひとつの基準である。ただし、これはあくまで基準であり、脚の長い人、短い人、私用する靴などによって、自分のフィーリングに合った高さに修正する必要がある。

メーカーによっても靴底の形状が異なるし、レース専用の固い靴でなくサイクリングシューズを使う場合は係数0.875くらいが適当である。±1センチぐらいの範囲で、いろいろ試してみる事が必要である。

特に若い人の場合は走り込む事によって体が発達し、ペダルの回し方も上手になるので、最適ポジションが変化する可能性が大きい。トッププロでも調整工具を常に携帯している人もいる。(※1


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サドルの前後位置

ペダル位置の出し方

サドルの前後位置を決めるに当たっては、まずシュープレートの位置を決めなくてはならない。

まずペダルシャフトの中心が、脚の親指の付け根の関節(コリコリと感じる玉のような部分)よりも3ミリから6ミリ後ろへ来るようにする。

そしてサドルにまたがり、クランクと足を両方とも水平位置にし、ヒザのお皿のすぐ裏側から垂らした垂線がペダルシャフトの中心を通る時のお尻の位置で決める。この場合、自転車も水平になっている事が絶対条件。カカトの微妙な上げ下げでもかなり変わってくるので気を付ける。(※2

ここで言うシュープレートとは、靴とペダルが動かないようがっちり固定するための位置決め機構で、樹脂や金属などで作られ、専用の靴底にボルトや釘で固定されます。現在はスキー板のビンディングのように差し込んでロックするタイプが主流で、固定のための靴底パーツはクリートとも呼ばれます。この辺はサドルの形や厚み、履いている靴の種類、ハンドルとの高低差によってもかなり違ってきます。

もっともこのような位置決め機構を持たないママチャリやフォールディングバイクでは、ペダルとサドルの厳密な位置調整はあまり大きな意味はないかもしれません。しかし固定具がなくても、このような正しい位置での踏み方(漕ぎ方)を意識するだけで、ペダリングの効率は圧倒的によくなります。最初は慣れないかもしれませんが、習慣づいてくると自然とこの位置に足が来るようになります。


簡単な合わせ方

足を伸ばしてカカトをペダルに乗せる

いちいち測るのは面倒だ、という人には、出先でもすぐ出来る簡易的な会わせ方があります。靴を履いてサドルにまたがり、ペダルを一番下に持ってきて、足のヒザを伸ばした状態で、かかとがペダルにぴったりと乗る高さにします。この時サドルとお尻が前後左右にズレていてはダメで、走行中と同じようにまっすぐ乗せておく事が重要。

これを踏まえた上で、上記にあるように足の母指球付近でペダルを踏み込むと、一番下に来た時にヒザが軽く曲がるベストな状態となります。


これら以外にもハンドルとの距離やフォームの決め方などいろいろありますが、本格的なスポーツタイプの装備がないと調整しきれない部分が多いのでここでは割愛します。車体の各部寸法を計算によって導き出す方法もあるのので、検索してみて下さい。

スポーツ車に乗り始めの人は、とかくサドル高やステム突き出し量が少しでも大きい方が偉い、カッコイイと思ってしまいがちですが、過ぎたるは及ばざるが如しで、これまた乗員の身体に悪影響を及ぼします。履いている靴の種類でも何ミリかは違ってきますし、その数ミリが長距離を走った後で大変な差となって現れます。さらに最適ポジションは数値的に固定されたものと考えず、「ちょっとおかしいな」と思ったら、その場その場で修正する臨機応変さも大事だと思います。上記の引用部分にもあるとおり、プロのレーサーでも調整用の工具を常に携帯しているのだそうです。

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無理は禁物

これらの調整をやった後では、どうしても信号待ちで足を着くのがしんどくなりますが、サドルの真下にペダルやクランクがある通常の自転車の構造では効率のいいペダリングと足つき性のよさは両立出来ないので、まあ仕方がないでしょう。そのかわり、きちんとしたサドル位置が得られれば、脚に力を入れやすくなって長距離でも疲れないし、ハンドル側に荷重が分散されてサドルに座り込む癖がなくなるので、お尻の痛みも軽減されます。

最初のうちはかなり違和感を感じる人も多いでしょう。慣れてしまえばこっちの方がずっと快適に走れるのですが、小中学校などでやっている安全教室では足着き性の確実さを最優先にしてサドルを合わせるよう指導しているせいか、子供の頃から長年足底ベッタリポジションに慣れきっている人の多くは、つま先立ちでしか足が着かないサドル高に不安を感じる事と思います。

しかしながら実際の路上では、信号待ちで一時停止している時よりもペダルを回して走行している時間の方がはるかに長いわけですから、どちらを優先させるべきかは自ずと決まってきます。お尻を少しズラしたり、足場となる縁石を見つけるなどすれば、短足な作者でもほとんど困る事はありません。

きちんとしたポジションで街中を颯爽と走る人は、とてもスマート(知的)に見えるものです。最近の健康ブームの影響で一般向け雑誌にも自転車関連記事がいろいろ載るようになったせいか、シャンとサドルを上げ、軽やかに街を駆けぬけていく若い女性もずいぶん増えてきました。怖いのをガマンしてまでサドルを上げる必要はありませんが、適正なポジション調整は、自転車を楽しむ上でとても重要な要素の一つであると思います。

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※1,※2)枻出版社「Bicycle Club」1986年11月号 シリーズ・トライアスロン(3)これだけは知っておきたいロードレーサーの乗り方、走り方(男性篇)より引用