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締め付けトルクについて

ボルトを締める

機械いじりが好きで、バイクのちょっとしたメンテナンス作業なら自分でこなしてしまう人でも、工具箱の中にトルクレンチまで用意している人は少数派でしょう。何たって高価ですし、専門誌やマニュアル本などを読んでトルク管理の重要性を認識してはいても、とりあえず感覚だけでやっちゃってる人がほとんどだと思います。

エンジンを始めとして、バイクの重要な部分のボルト・ナットには締め付けトルクが指定されており、サービスガイドの整備資料ページに詳しく出ています。


締め付けトルクの表記と考え方

締め付けトルク概念図

締め付けトルクが1kgf・cmと指定されている場合を考えてみましょう。

kgfとはkilogram forceの略でキログラム重、または重量キログラムと読み、1キログラムの重さの物体が地球の引力にまっすぐ引っ張られた時に働く力の大きさを表す単位。それに長さを表すセンチメートルが掛け合わされています。

つまり、ボルトの中心から長さ1センチの工具を水平に伸ばし、その端に重さ1キログラムのオモリを垂直にぶら下げた時に発生するトルク(1kgf × 1cm)で締めなさい、という意味です。


でも、ボルトやナットを締めつけるたび、いちいちオモリを用意していたんじゃ手間ですし、オイル交換で使うドレンボルトのように下向きに回せない場所だってあります。

だいいち長さ1センチのスパナなんて、ホームセンターにもなかなか置いてないですよね・・。

締め付けトルク概念図

トルク(回転モーメント)は力 × 回転中心からの距離で表されますから、スパナの長さを2倍にすれば、必要なオモリ(力)は2分の1で済む計算になります。

上記の1kgf・cmの例でいけば、長さ10センチのスパナを使えば、必要なオモリは1キログラムの10分の1、つまり100グラムの力を加えれば適正トルクに到達出来る、というわけです。

この基本的な関係式を覚えておけば、使う工具の長さを元に、手に加える力を加減する事で、大体の適正トルクを発生させる事が出来ます。力の加減は、作業する前に家庭用の体重計を上から手で押さえてみる事で体感的に掴めます。


このスパナに加えるべき力を機械的に加減してくれるのがトルクレンチ。指定したぶんのトルクがかかると、首の部分がカクッと折れ曲がったり、ブザーが鳴るなどして、適正トルクに達した事を教えてくれます。

Bandit250の締め付けトルク

Bandit250における主な部分の締め付けトルクデータを書いておきます。

場所 締め付けトルク
[kgf・cm]
説明
フロントアクスルシャフト 500-800 前輪シャフト
リアアクスルナット 550-880 後輪シャフト左側の固定ナット
フロントアクスルストッパボルト 180-280 右フォーク先端にある前輪シャフトの回り止めボルト
フロントフォークアッパブラケットボルト 400-600 トップブリッジのフォークインナー固定ボルト(左右)
ステアリングステムヘッドナット 500-800 トップブリッジ中央・ヘッド部のメッキナット
ハンドルバーホルダボルト 400-600 セパハンの固定ボルト(左右)
ハンドルバーホルダナット 270-420 セパハン固定ボルトの下に入ってるロックナット(左右)
ハンドルブラケットボルト 180-280 パイプハン仕様でハンドルパイプを固定するブラケットのボルト(4本)
フロントフォークロアブラケット 250-380 アンダーブリッジのフォークインナー固定ボルト(左右)
フロントフォークシリンダストッパボルト 250-350 フォーク最下部の8ミリ六角ドレンボルト(左右)
フロントブレーキマスタシリンダボルト 50-80 フロントブレーキレバーをハンドルに固定しているボルト(2本)
フロントブレーキキャリパボルト 300-480 フロントブレーキキャリパーの固定ボルト(2本)
フロント/リアブレーキキャリパブリーダ 60-90 ブレーキフルードを抜くところ
オイルドレンプラグ 200-250 エンジン下部のオイルを抜くボルト
オイルフィルタキャップナット 120-160 オイルフィルタのフタを止めている3個の袋ナット
スパークプラグ 100-120 プラグはまず手で止まるまで締めてから、レンチでギュッと。

特に指定のない部分でも、ボルトの太さによって数値が決められています。

通常のボルトに加えて、強力ボルトと呼ばれるタイプのものは同じサイズでも締め付けトルク指定がやや大きめで、より大きな力がかかる重要な部分に使われます。外見ではボルトの頭に数字で7と書かれていたり(通常のボルトでは4、または表記なし)、六角棒レンチで締め込む作りのものが多いようです。

ねじ直径 締め付けトルク[kgf・cm]
通常ボルト 強力ボルト
4mm 10-20 15-30
5mm 20-40 30-60
6mm 40-70 80-120
8mm 100-160 180-280
10mm 220-350 400-600
12mm 350-550 700-1000
14mm 500-800 1100-1600
16mm 800-1300 1700-2500
18mm 1300-1900 2000-2800

場所にもよりますが、メーカ指定の締め付けトルクは、我々が想像しているよりも小さい場合がほとんどです。

マニュアルを見るかぎり、エンジン内部を除いた車体周りで一番大きな締め付けトルクを要求されるのは、リアサスペンションのリンクプレートを固定しているボルトナットで、指定値は840〜1,200kgf・cm。これがどれ位かと言うと、長さ30センチのメガネレンチを使った場合、かけるべき力は28〜40キログラム重。これは成人男子なら片手で押し下げても充分クリア出来るでしょう。

普通乗用車のホイールナットもこれとほぼ同じ値ですから、パンクでタイヤ交換をする時など、レンチを足で踏んづけて全体重をかけ、エイヤッと締め込んでいる場面をよく見かけますが、あれではオーバートルク(締めすぎ)になってしまいます。

「ゆるすぎるのは困るけど、強く締め込んである分にはべつに構わないでしょ?」などと思いがちですが、締めすぎるとあとで抜けなくなったり、金属疲労が進行し、走行中にポッキリ折れる可能性が高まったりと、いろんな悪影響を及ぼします。

たかがネジなどと考えず、きちんとした手順で作業したいものですね。

トルクの単位に注意

締め付けトルク概念図

メーカーによってはセンチ単位でなくメートル単位のkgf・mで表記している場合もありますので、間違えないようにしましょう。
両者を等式で表すとこうなります。

1kgf・m = 100kgf・cm


締め付けトルク概念図

近年はSI単位に統一されつつあるので、エンジンの馬力がキロワット表記になったのと同様、トルクもN・m(ニュートン・メートル)という単位が推奨されています。
1ニュートン1キログラム重のほぼ10分の1。

1N ≒ 0.102kgf

もちろん計算のやり方はこれまでと同じです。


適度に気を遣おう

トルクレンチを使った締め付け管理法は、整備の現場ではごく一般的なものです。しかしネジの状態・・傷や摩耗、座面の摩擦の大小や、ボルト自体のごくわずかな歪みが影響して、たとえ指定された数値内で締めたとしても、必ずしも完璧ではない事もあるそうです。さらに一度締め込んで抜いたボルトは、目に見えるような傷や曲がりがなくても無条件で新品に換えてしまうというマニアックな方もいるとか。ボルトは締め込む度に引き延ばす力が加わるため、何度も脱着しているうち、一見大丈夫そうに見えても金属がジワジワ劣化していく、つまり寿命があるからです。

もっとも劣化の進行具合は使われる場所にもよりますし、すべてのネジに対してそこまでする必要があるかは疑問ですが、私たちのようなアマチュアでも出来る事・・たとえばボルトのネジ部や座面は締める前にきちんと掃除し、グリスなどを正しく塗ったり、工具もきちんと合ったものを正確に使うなどの気遣いがあれば、詳細な整備データもより生きてくるし、バイクも喜ぶのではないでしょうか。